大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)2701号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告が請求の趣旨中に主張する各登記が本件不動産になされていることは各当事者間に争いがない。
原告が被告組合に対し、昭和三五年二月二二日本件不動産の権利証、白紙委任状、印鑑証明書、を被告組合に渡したことは原告と被告組合間には争いなく、原告と被告協会との関係においては、<証拠>によりこれを認めることができる。
原告は被告組合が本件不動産につき有する仮登記及びそれに基づく本登記は被告組合が勝手にした原告の意思に基づかない登記であると主張するのでこの点につき判断する。
<証拠>によれば、昭和三五年二月当時原告が代表取締役であつた昭和鋳造鉄工株式会社が被告組合より約四二〇万円の債務を有し、これの弁済保証を求められた原告は、その担保として本件不動産の権利証等を被告組合に手交したものであることが認められる。担保とするということの意味は原告が被告組合に手交した書類が本件不動産の権利移転をなすに必要な書類であること、現実に昭和鋳造鉄工株式会社が前記のように被告組合に対し巨額の債務を負担していることよりみて右会社が債務の支払いをしなかつた場合は本件不動産の処分をもつて右債務の弁済にあてる趣旨であつたと認められる。原告本人尋問結果中、右認定に反する部分は措信できない。
しかしながら右の事実は現実に本件不動産に関する代物弁済予約が成立したことまで意味するものではない。代物弁済予約が成立するためには、本件不動産の価額の評価等が原告、被告組合間に合意の下で行われ、不動産の提供によつて、いくらの債務が消滅するかの具体的な契約内容が不動産の価額とその提供によつて消滅する債務額との間に合理的な均衡を失わない範囲で確定することを要し、契約内容が確定したときをもつて代物弁済予約成立の時期と言えると考える。
ところが、<証拠>を綜合すると、本件不動産をいくらの債務の代物弁済として提供するかなどの具体的な交渉が原告被告組合間に行われたことは認められず、原告の了解のない間に被告組合は勝手に本件物件を百七七万二一二〇円と評価し、前記各書類を利用して原告と被告組合との間の本件各登記をしたことが認められる。そうすると右各登記は本件不動産に対する代物弁済予約が成立していないのに被告組合において勝手に行つたものといはざるを得ず、右架空の代物弁済予約を前提とした所有権移転本登記は無効と判断するほかはない。
ただし以上認定のとおり、原告、被告組合間の代物弁済予約が成立しておらず、不成立の代物弁済予約に基づく所有権移転登記が無効であるとしても、被告組合がした代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記が無効であるか否かは別の問題である。けだし本件の如く継続的な取引関係において債権担保のために不動産が提供された場合、根抵当権設定契約と並行して物件の価額債務額等が確定されないままいわいる根代物弁済予約がなされ「代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記」なる登記が行われることはしばしば存在する。しかし、前述のとおり右の段階では、未だ代物弁済の予約は成立していないのであるから、(もつとも当裁判所は根代物弁済予約を無効というものではなく、いいわる根代物弁済予約は将来適当な時期に提供物件につき代物弁済予約を結ぶ旨の約定として有効であると考える。)厳密な意味では右の仮登記は代物弁済予約に基づく仮登記とはいえない。しかし、前記認定の本件における如く、債務者が将来債務額の変動が予想されるのに債務の弁済ができないときはその物件の処分をもつて債務の弁済に充て趣旨のもとに不動産を提供して登記に必要な書類を手交した場合代物弁済予約が成立していなくても根代物弁済予約がなされた場合と同様右の仮登記を付することは、将来目的物件の所有権移転がなされた場合の登記順位確保を目的とする、「代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記」なる名称を有する債権担保の一形式として可能であり、かつ当事者の意思にも適合し、有効と考えられるので原告と被告組合間の原告主張の仮登記は有効であつて、原告の本訴請求中、右仮登記の抹消登記手続を求める部分は理由がないから棄却を免れない。(三好吉忠)